インサイト本格実践ガイド —— UXリサーチをより良い意思決定につなげるために
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インサイト
UXリサーチ

「ユーザーインタビューはしてるけど、どうまとめよう?」「インタビューした自分だけ解像度が上がった状態になって他のメンバーには伝わらない...」
リサーチにおけるこうした適切なアウトプットの不在や共有の難しさは、リサーチを事業に活用するための大きな問題の一つです。

リサーチから事業/プロダクトの意思決定へとスムーズに接続するためには、「インサイト」という単位でまとめることが非常に重要です。
このドキュメントでは、インサイトの考え方や必要なスキルまで、インサイト抽出を行う上で重要なポイントを詳細にお伝えします。
どのセクションからでも読み進めることができる構成になっています。関心がある箇所や、現在の事業フェーズなどに合わせたセクションをご覧ください。
ユーザーインタビューをはじめとする、あらゆるUXリサーチは「リサーチというアプローチを使って、ある目的を達成すること」が基本です。

そのため、リサーチがうまくいったか、必要十分なリサーチができていたかどうかは、「(事業やプロダクト、組織の)目的に対して効果的だったか?」によって決まると言えるでしょう。言い換えると「リサーチは、事業や組織に使われてナンボ」であるということです。
一方で、リサーチされたデータ(ローデータ)をそのまま渡されても、そこから意思決定をすることは非常に難しく、またごく一部の人しかできないでしょう。

ここで登場するのがインサイトです。ローデータと目的をつなぐ間に位置する存在がインサイトなのです。
事業や組織で使われる、意思決定に役立つようなリサーチをするためには、良いインサイトを継続的に蓄積していく必要があります(インサイトの必要性については「なぜインサイトにまとめるべきか」も併せてご覧ください)。
良いインサイトを抽出し、継続的に蓄積していくためには、さまざまなスキルや知識を身につける必要があります。
リサーチの実施によるデータの収集(良いローデータの収集)
具体的なインサイトの抽出(≒ ファクトの抽出)
高度なインサイトへの変換
インサイトを活用した意思決定の推進
事業と組織フェーズに合わせたインサイトの継続的な運用
これらを身につけるための難易度や必要な時間を加味すると、インサイトの扱い方に関して、ジュニア、ミドル、シニアと3つのレベルで分けて考えることができます。

ジュニアレベル ... ローデータから具体的なインサイトを抽出することができる
ミドルレベル ... ジュニアレベルに加えて、具体的なインサイトから、さらに高度なインサイトを抽出することができる
シニアレベル ... ミドルレベルに加えて、高度なインサイトを意思決定へと接続することができる
※ 今回はリサーチ実施後からゴール達成 / 活用までの範囲(リサーチの後半部分)を扱っています。リサーチの計画や実施といったリサーチの前半部分についてのレベルや必要なスキルなどは今回は扱っていません。前半部分のプロセスについては、こちらのガイドラインをご覧ください。
さらに、ジュニア・ミドル・シニアの3つのレベルを、詳細に因数分解すると以下のように定義できます。

💪 必要なスキル / 知識
正確なファクト抽出(ジュニア)
ユーザー像やユーザー行動フローの理解(ミドル)
既存のインサイトの全体像理解(ミドル)
事業とユーザー体験の関係理解(シニア)
インサイトの運用ルールづくり(シニア)
✅ 共通するスキル
リサーチ情報の適切な抽象化スキル
🏃 上達のための推奨アクション
ユーザー接点 / 顧客接点の増加(ジュニア→ミドル)
インサイトのレビューをもらう / ペアプロのようにペアでインサイトを出す(ジュニア→ミドル)
インサイトのデータ整備 / リファクタリング(ミドル→シニア)
インサイトの活用頻度増加(ミドル→シニア)
インサイト抽出ができるメンバーの増加(シニア)
事業フェーズに合わせたインサイト運用の見直し / リファクタリング(シニア)
次のセクションから、各レベルの具体的なイメージや次のレベルのための具体的なアクションについて言及します。ご自身のレベルに合ったセクションをチェックしてみてください。
まずは、インサイトの考え方や定義について理解を深めましょう。

インサイトはContextual Factと呼ばれ、日本語では「文脈に合った事実」となります。さらに補足するならば「事業や組織の文脈に合った事実」と言えるでしょう。
つまり、定義から考えるとインサイトは
事実(ファクト)である
その事実が事業や組織の文脈に沿ったものであること
の2つが重要だと言えます。
「事業や組織の文脈に合った事実」と言われてもピンと来ない方が多いかもしれません。ここで、インサイトをより直感的に捉えるために、フルーツを使って考えてみましょう。以下の問いについて、一緒に考えてみてください。
Q. 田中さんは以下のような3つの発言をしました。ここから考えられる、田中さんの好物はなんですか?
「ブドウ 🍇 がおいしい」
「リンゴ 🍎 がおいしい」
「ミカン 🍊 がおいしい」
いかがでしょう?
ある人は、「田中さんはフルーツが好きなのだ」と言うかもしれません。またある人は「田中さんはデザートが好きなのだ」と見るかもしれません。

重要なことは「田中さんの好物が何か」は、文脈によって変化するということです。

先ほどの発言が、スーパーや八百屋での場合は、
「(野菜に対して)フルーツが好き」
だと言えそうです。レストランや飲食店での発言の場合は、
「(メインディッシュに対して)デザートが好き」
と捉えた方が良いかもしれません。
ここでの「スーパー」「レストラン」があなたの事業や組織を表す比喩(メタファー)です。つまり、あなたが「何屋さんなのか」によって得られるインサイト(そして得たいインサイト)は違うということです。
フルーツのメタファーを使うと、インサイトから意思決定 / 事業機会への活用までの流れも考えやすくなります。
田中さん(ユーザー)のさまざまな発言や行動(ローデータ)から
「ブドウ 🍇 がおいしい」という特定の発言や行動をピックアップし
「ブドウ 🍇 をおいしく感じる」という具体的なインサイトに落とし込み
「リンゴ 🍎 をおいしく感じる」「ミカン 🍊 がおいしく感じる」などの他のインサイトと組み合わせて「フルーツを好む」といった高度なインサイトに変換する
他のユーザーにも調査を繰り返し、それぞれのインサイトの確らしさを高めていく
インサイトを元に、商品の拡充や新商品の企画を進める
非常に単純化されたメタファーですが、インサイトという概念を直感的に捉えるための大きなヒントになるでしょう。
上記のように、インサイトがあなたの事業や組織に合ったファクトであることは分かりました。一方で、これだけでは、すぐにインサイトを出しづらい方も多いかもしれません。よりインサイトの輪郭をつかむために、インサイトの特徴を整理してみましょう。
⭕️ インサイトと言えるもの / 適切なインサイト
具体的なインサイトから高度なインサイトまでグラデーションである(点ではなく線である)
ユーザーの行動や発言など、ユーザーに関する事実に基づいたものである
ユーザーの願望や課題、本音を表すものである
ユーザー視点でまとめられた事実である
定量データや定性データを問わず、ユーザー接点を元に抽出されたもの
リサーチデータ(ローデータ)を適切に抽象化したもの
複数のリサーチをまたいだ共通の事実である
❌ インサイトではないもの / 不適切なインサイト
事業や運営目線の仮説
根拠のないユーザー課題(課題の「仮説」にすぎない)
飛躍が大きすぎる抽象化(「ブドウ🍇は美味しい」から「有機物は美味しい」のような)
事実だが、事業や組織の文脈に沿っていないもの
リサーチされたデータ全体の要約
1つのリサーチのみに限定された事実
このように考えてみると、ことUXリサーチにおけるインサイトには、「ユーザー視点で出された事実で」「適切に抽象化されたもの」というキーワードが浮かび上がります。
ここまでで、インサイトの輪郭についてかなりはっきりと掴めたのではないでしょうか?次に、ローデータから具体的なインサイトを出すためのポイントを見ていきましょう。
インサイトの考え方を理解したら、さっそくインサイト抽出を実践しましょう。
題材として、「ユーザーインタビューからインサイトへ落とし込む実践的なプロセス」でも触れた、架空のECサイトを考えてみます。どんなインサイトが出せるか、考えながらご覧ください。

サービス名:Centou EC(Tシャツや雑貨などを販売する架空のECサイト)
インタビュー者:小林さん(リサーチャー)
インタビュー対象:山田さん(ユーザー)
インタビューの目的:サービスの利用者を増やすために、利用開始の動機やタイミングなどを調査する
ユーザーインタビューの結果は以下のようになりました。さて、あなたがCentou ECの運営をしている場合、どのようなインサイトが抽出できるでしょうか?
小林さん :
山田さんはじめまして。今日はお時間をいただき、ありがとうございます。Centou ECについていくつか質問させてください。
山田さん :
はい、よろしくお願いします。
小林さん :
まず、Centou ECを初めて利用したきっかけは何でしたか?
山田さん :
友達がX(Twitter)で面白いTシャツを買ったって投稿していて、気になってリンクをクリックしてみたら、それがCentou ECだったんですよ。
小林さん :
そうだったんですね、ありがとうございます。ちなみに、ご友人はどんなTシャツを投稿されてたんですか?
(つづく...)
インサイトとして、以下のようなことが言えそうです。
X(Twitter)経由でCentou ECを知った
友人のSNS経由でCentou ECを知った
この時、SNSとするかX(Twitter)とするかなどは、事業の性質やフェーズによって決めると良いでしょう。
例えば、SNSごとに利用ユーザーの特性が違う場合は「X(Twitter)経由で」と限定した方が施策に活用しやすくなります。また、立ち上げ時期の場合は、経路を限定しすぎると活用しづらいかもしれません。

インサイトを出し始めの時期(ジュニアフェーズ)において重要なことは、
事実を的確に捉える(勝手に解釈を加えない)
リサーチの場にいない人にも伝わる表現にする
トライアンドエラーを繰り返す
ミドルやシニアにレビューをもらう
といったことです。ジュニアフェーズでは、実践こそが一番の上達の近道だと言えます。ユーザー接点やインサイトを出した数を増やすことを意識しましょう。
また、良いインサイトかどうかを自分で判別するためのおまじないとして
・「{{ ローデータの特定部分 }}から {{ 自分が出したインサイト }}だと言えそうか?適切なつながりか?」
という問いを持っておくのも良いでしょう。
※ {{ ローデータの特定部分 }}や {{ 自分が出したインサイト }}には、それぞれ該当するリサーチデータやインサイトを入れてみてください。
具体的なインサイトが出せるようになったら、高度なインサイトへの変換をしていきましょう。
このミドルフェーズで最も重要なことは、「活用を意識した抽象化をすること」です。例えば、分かりやすい例として、高度なインサイトを抽出するなら、以下のようになります。

上記の例では、流入経路を抽象化して高度なインサイトにしています。また、商品を購入する時の例で考えると、以下のように考えられます。

商品の発見や検索の体験については、以下のような高度なインサイトが考えられます。

抽象化したインサイトが「どんなことに使えそうか?」を意識しながら、高度なインサイトを出していくことで、より意味のあるインサイトになります。

適切な抽象化を行うためには、「提供しているサービスやプロダクトがどんな体験なのか」「他に出ているインサイトは何があるのか」など、ユーザー体験や既存インサイトを把握しておくことが重要です。
※ このドキュメントでは、分かりやすく「具体インサイト」「高度なインサイト」と2つに分けていますが、実際には、具体→少し高度→高度、などのように、複数回にわたって抽象化を行う場合も多々あります。
インサイトは、蓄積してこそ効果を発揮します。一方で、インサイトが増えるとどうしても探しづらくなってしまったり、管理が難しくなってしまいます。
シニアフェーズの人は、このような問題を解決できるスキルセットを持った人物です。つまり、シニアフェーズで最も重要なのは、「事業状況に合わせた、データ構造を設計できること」となります。

インサイトのデータ構造に求められるのは、大きく2つあります。
探しやすさ (Findability):さまざまな職種が、自分が必要なインサイトに辿り着きやすいこと
管理のしやすさ (Tractability) :高度なインサイトに変化したり、必要であれば分解するなど、扱いやすいデータ設計であること
これらを実現するためには、以下のような複数の情報構造のパターンを組み合わせて考えることが重要です。

階層型の情報構造 ... 具体と抽象の行き来がしやすいため、目当てのものに早く辿り着きやすい構造
カテゴリ型の情報構造 ... タグやフォルダなどに代表される構造。あるデータに対して複数の特徴をつけるなどにより、検索や絞り込み時がしやすい構造
Centouでは、このようなインサイトの管理を自社で構築するよりも、圧倒的に手軽に実現することができます。ぜひこちらよりお気軽にお問い合わせください。
ここまででインサイトを抽出し、継続的に運用することができるようになりました。ここからは、蓄積されたインサイトをさまざまな施策や組織の取り組みに活用しながら、さらに必要なインサイトを蓄積していくループをつくることが重要です。

そして、インサイトを活用したり、良い意思決定をするためのポイントとして「蓄積は秩序立てて、活用は柔軟に」ということを意識すると良いでしょう。
例えば、ユーザーの流入時点に関するインサイトが、利用継続のための施策に活用できる、といったことはよくあります。

また、インサイトの活用先は施策だけではなく、チームの認識を揃えたり、施策の目的の整理をするなど組織面でも多くの活用先があります。

インサイトを活用する時に、「情報が足りないかも?」と思った時には、新しいリサーチ計画を立てるのも良いかもしれません。

このように、柔軟な活用をしながら、事業フェーズに合わせたインサイトを蓄積していくことができれば、リサーチは常に事業や組織にとってなくてはならないものになります。
ユーザー理解や顧客理解の重要性については、これまでも、さまざまな場所で語られてきました。
UXデザインに投資することで、企業のROI(投資利益率)は最大235%向上する(Forrester Research)
プロダクト開発のプロセスにおいて、企画段階など初期のデザインプロセスで修正することで、開発後期で修正するよりも、コストは1/100になる可能性がある(IBM)
顧客の55%は、良いブランド体験をした後に友人や家族にそのブランドを紹介する(Think with Google)
顧客の89%は、(プロダクトを含む)顧客体験の悪さを理由に競合他社に移行する可能性がある(Oracle)
一方で、ユーザー視点やユーザー理解は、その概念の曖昧さから、チームで扱うことが非常に難しくもありました(そのため、時にユーザー視点は「きれいごと」のように扱われることも珍しくありません)。
「インサイト」という考え方は、ユーザー理解やユーザー視点に再現性を持たせ、チームで運用していくための考え方です。インサイトをうまく活用し、ユーザーに愛される事業や、継続的に価値をつくり続けられる組織をつくりあげましょう。
Centouでは、インサイトをチームで扱うための強力な機能を提供しています。ぜひこちらからお問い合わせください。
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