確実にプロダクトの成長に資するリサーチ「アトミックUXリサーチ」について

7min

  • アトミックUXリサーチ

2022年から2023年にかけての、大手テック企業での大量のレイオフ。対象となった主な職種の1つがUXリサーチャーでした。この1年半で、米国のテック企業において、UXリサーチャーを含むUX関連職種は、2万人以上がレイオフされました。

UXリサーチやユーザーリサーチ(以下、UXリサーチ)の認知度は上がる中で、その事業的意義、経営的な価値が改めて問われています。「UXリサーチの転換点」とも呼べる時期に、このドキュメントでは、以下のようなトピックをまとめてみたいと思います。

  1. UXリサーチは、事業や経営、プロダクトに本当に必要なのか?

  2. 本当に事業やプロダクトに必要なUXリサーチとは、どういうものか?

前者は主にマネージャーの方や事業責任者、経営層に向けた内容となっています。後者はリサーチャーやデザイナー、プロダクトマネージャーなどに向けた内容にしています。

6割の企業がUXリサーチを行っている

マッキンゼーが行った調査によると、開発時にエンドユーザーへのヒアリングを行っている企業は6割に上るとのことです。

また、別の機関による調査によると「UXリサーチに関する社内の重要性の認識」を一番の課題としている企業は、たったの3%とのことで、その重要性は認識されてきていると言えます。

日本においては、これらの割合は多少変わると思いますが、「ユーザーヒアリング」「ユーザーインタビュー」を行っている企業が増えていることや、認知度が向上していることは確実に言えることでしょう。

テックジャイアントたちのキラー機能は、UXリサーチから生まれている

UXリサーチが本当に事業やプロダクトにとって有益なものなのか、その効果を定量的に、統計的に表すことは2023年現在においては難しいようです。

これは、デジタルプロダクトにおけるUXリサーチの歴史はまだまだ浅く、約15年程度しかないことも関係しています(2000年代後半にスマホが普及し、ユーザー中心設計という考え方が広まったころからが、UXリサーチの歴史とされています)。

では、何をもって「UXリサーチは重要だ or 重要ではない」を判断するのか。

その1つの回答が、以下のような「UXリサーチによって生まれた機能 / サービスがどれだけ成長しているか」だと思います。

UXリサーチによって生まれた機能やサービス

最も有名な事例の1つは、Amazonの1クリック注文(1-click-order)かもしれません。
配送先住所の入力や決済情報の入力をすることなく、ボタン1つで注文を確定できる機能です。

Amazonでの1クリック注文についてのキャプチャと機能ができた背景などについて記載している画像。背景には、「ユーザーの商品購入までのプロセスが多く 購買意欲を削いでいるのではないか?という 仮説があった。」と書かれており、リサーチと結果の欄には「詳細なプロセスや手法は非公開だが、ユーザーニーズの把握のための定性リサーチと試験的なリリース後のA/Bテストが行われたと されている。」と書かれている。

引用:Amazon

この1クリック注文は、ユーザーの商品購入までの手間(フリクション)を省くために、定性リサーチやA/Bテストを実施してリリースされ、特許まで取得しています。

他にも、以下のような機能、改善がUXリサーチによって生まれたと言われています。

  • Airbnbでの写真撮影サービス

  • Zoomのブレイクアウトルーム機能

  • Instagramのストーリーズ機能

  • SpotifyでのDiscover Weekly機能

  • Alexaでの会話速度調整機能

  • Pinterestでの検索機能の改善

  • Slackによる質的調査を通したアクティブユーザーの20%増加

  • Office 365チームの質的調査による満足度向上

これらの事例を見ると、幅広い業界において、B向け・C向けプロダクトを問わず、UXリサーチが事業の重要な要素を形作っていると言えるのではないでしょうか。

プロダクトと事業を伸ばすためのリサーチ、アトミックUXリサーチ

では、変化が激しいIT業界やソフトウェア開発において、有効なリサーチとはどのように行えばいいのでしょうか?

ここで登場するのが、2016年ごろから登場した「アトミックUXリサーチ」(Atomic UX Research / Atomic Research)です。

このドキュメントでは、考え方やポイントをかいつまんでご紹介します。

レポートからインサイトへ

アトミックUXリサーチは、アジャイル開発に即した新しいリサーチ手法です。

かつての、「リサーチャーがリサーチを行い、レポートにまとめて他の事業メンバーに共有する」といった流れでは、どうしてもリサーチに時間も負担もかかり、開発サイクル全体が長期化してしまいます。

また、リサーチプロセスが見えにくいことや、属人化しやすいことなども、これまでの手法の難しいポイントでした。

これらを解決し、よりアジャイルにリサーチを進め、プロダクトチームや事業部全体が活用しやすいのがアトミックUXリサーチです。

従来のリサーチが、レポートを成果物に3週間 ~ 半年のサイクルで、属人化しやすかったことに対して、アトミックUXリサーチは、インサイトを成果物に、1日 ~ 2週間の単位でリサーチを進め、わかりやすいプロセスであることが特徴です。

アトミックUXリサーチは、アジャイル開発と同じように、状況に応じて小さく反復的にリサーチを続けていくことでその価値を発揮します。

根本的な考え方として、1つのレポートよりも、100のインサイトを重視することが、アトミックUXリサーチの考え方なのです。

属人化を避けた、シンプルなプロセス

アトミックUXリサーチは、以下のような4ステップで実施され、「インサイト」の単位がリサーチの成果物となります。

  1. リサーチの実施

  2. ファクト抽出

  3. インサイト抽出

  4. 活用(アイデア出し・課題特定・ジャーニーマップなど)

これらのシンプルなステップで、インサイトを貯めていき、活用を進めていきます。

活用先は、インサイトが増えるほど多くなり、プロダクト施策のアイデアや、ユーザー課題の整理、クリエイティブのアイデア、営業資料のワーディングに至るまで、さまざまな場面で役立つでしょう。

蓄積し、資産にすることで価値が増す

リサーチを実施しても、その結果を(ただ単に蓄積するのではなく)きちんと資産にできなければ、時間が経つと活用されない「使い捨てのリサーチ」になってしまいます。

アトミックUXリサーチにおける重要なポイントの1つは、インサイトの蓄積によってリサーチ情報を資産にすることです。

資産が増えれば増えるほど、活用できる場所が増え、

  • プロダクトの施策

  • 広告やクリエイティブ

  • 商談や営業資料

  • プレスリリース

など、あらゆるユーザー接点に活用できるようになります。

うまく資産にすることができれば、(まるで再利用可能なコンポーネントのように)施策ごとに都度リサーチを行うことも減り、プロダクト開発のサイクルを早めることも可能です。

その場限りのリサーチを行うと、リサーチが必要な施策ごとに、毎回ゼロからリサーチを行う必要がある。
資産になるアトミックUXリサーチを行うことで、これまでの資産を活用し、施策単位のリサーチ時間の短縮が見込める。

そして、ただ単純にリサーチ情報を貯めるのではなく、資産になるように蓄積することがポイントです。

資産になるような、価値のあるリサーチのデータベースをつくるには、Centouのような専用ツールを使うことや、(一部のテックジャイアントのように)専用のツールを自社で構築する場合があります。

事業やプロダクトに資するUXリサーチとは

ここまでで、UXリサーチの重要性や、アトミックUXリサーチについてご紹介しました。
当初の問いに対して、現時点での答えを出すなら以下のような回答になりそうです。

Q. UXリサーチは、事業や経営、プロダクトに本当に必要なのか?

過去の事例を見るに、ほとんどの業界やプロダクトにおいて必要と言えそうです。
一方で、いわゆる「勘・経験・度胸」(KDD)でも、(失敗するリスクも高いものの)プロダクト開発ができてしまうのも事実です。
そのため、自組織でUXリサーチの効果を証明していくためには、

  • 小さく始めて小さくリサーチの必要性を認識してもらう

  • 資産になるようなリサーチ運用を行う

  • リサーチャーやデザイナーに閉じない、活用しやすい成果物(インサイトなど)をつくる

といった、状況に応じたアプローチが必要です。

Q. 本当に事業やプロダクトに必要なリサーチとは、どういうものか?

デジタル製品など、変化が早い環境においては、アトミックUXリサーチが最も適したアプローチと言えるでしょう。
ただし、アトミックUXリサーチは手法を限定するものではなく、プロセスや運用方法に主眼が置かれています。
最適な手法や必要なリサーチの数、詳細な進め方については、ぜひご相談ください。

データドリブンからインサイトドリブンへ

(定量)データの重要性が高らかに叫ばれ、データドリブンの時代が訪れた2010年代。
もはや、データ分析や活用が多くの企業にとって当たり前になり、行動履歴やアクセスログを見ることは一般的になりつつあります。

ユーザー価値と事業価値をさらに高めるためには、定量データに加え、よりN1ユーザーの情報などの深い定性データを、うまく資産化することが重要になっています。データドリブンに次ぐ新たな柱として、「インサイトドリブン」な組織をつくることが、2020年代における競争優位性になるかもしれません。

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Author

Kenji Kato

年間400名以上のユーザーインタビューを実践、5回の事業立ち上げ、顧客インサイトを活用し年間売上9倍の成長などを経て、現在はインサイトマネジメントシステム「Centou」のプロダクト責任者をしています。「あらゆる企業やチームがインサイト駆動で成長できる未来をつくる」をモットーに、さまざまな組織のインサイトマネジメントを支援しています。

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