デザイナーのためのインサイト活用プレイブック
12min
デザイン
インサイト活用

プロダクトや、顧客とのコミュニケーションを設計するデザイナーにとって、「プロダクトやコミュニケーションが、ユーザー・顧客に受け入れられるか?」は非常に重要な論点です。
ユーザーに受け入れられなければ、どんなに市場が大きくても、素晴らしい技術だったとしても、実際に事業が成功することはあり得ません。

一方で、受け入れられるとは、「とにかく要望を反映すること」や「顧客に聞かないと決められない状態」といった、ユーザーや顧客に迎合することではありません。

参考 : 「医者のように考える」(プロダクトマネージャーのための、ユーザーインサイト活用4つのポイント)
では、ユーザーに受け入れられる(選ばれる)プロダクトやコミュニケーションのデザインのためには、何をすべきなのでしょうか?
本ドキュメントでは、そんなデザインシーンにおけるインサイト活用のヒントをまとめます。
このドキュメントはデザイナーとして活動されている方に限らず、プロダクトが顧客に受け入れられることに関心がある方に向けた内容となっています。
プロダクトやサービスに関わるデザイナー(UI/UXデザイナー・プロダクトデザイナー)
クリエイティブやグラフィック制作に関わるデザイナー(コミュニケーションデザイナー)
プロダクト施策を決めるプロダクトマネージャー・ディレクター
プロダクト施策の打率(成功確率)を高めたい事業責任者やマネージャー
プロダクトのUIデザインや、仕様の決定に関わっていると、少なからず「この機能は、ユーザーにとって意味があるものだろうか?」と考えるでしょう。
このとき、デザイナーの頭の中には、大きく「ユーザー」(個人の場合も、顧客企業も含め)と、「プロダクト」(事業全体や運営組織含め)の2つのキャラクターが登場します。

しかし、現実世界を考えるとこの2つだけで成り立っていることは、ほぼあり得ません。
実際のところ、ユーザーにはあなたのプロダクトを使ってやりたいことだけではなく、他の予定や家族との時間もあります。そして、あなたのプロダクトを使う以外にも別の選択肢を検討しているかもしれません。

さらに、別の選択肢に含まれるものは、いわゆる競合プロダクトではなく、全く別ジャンルのサービスかもしれません。
つまり、「ユーザー」「プロダクト」の2つだけを捉えるのではなく、それらを取り巻く「コンテキスト」もセットで考える必要があるのです。

そして、「コンテキスト」「ユーザー」「プロダクト」の3つの関係性によって、ユーザーの行動は左右され、あるユーザー体験が良かったか悪かったかが決まります。
例えば、ある社会人(ユーザー)が、仕事の予定でカレンダーがいっぱいな状態(コンテキスト)な時、URLを1クリックでミーティングが起動するZoomなどは、「良い体験」であると捉えられる、といった具合です。
「1クリックで操作が完結する」といった価値は、コンテキストに依存するため、全てのプロダクトで価値になるわけではありません。つまり、良い体験(受け入れられる体験 / 選ばれる体験)であるかどうかは、絶対的なものではなく、コンテキスト / ユーザー / プロダクト、3つの関係性で決まるものと言えます。
では、コンテキスト / ユーザー / プロダクトの3つをバランスよく捉えて、ユーザーに受け入れられる体験をデザインするためには、何が必要なのでしょうか?
本ドキュメントでは、デザインシーンで重要な4つの視点に分けて解説します。

コンテキスト : 利用環境や前提についてのインサイトを得る
プロダクト : アクションや情報の粒度についてのインサイトを得る
プロダクト : ユーザーの優先度についてのインサイトを得る
コミュニケーション : 自然と感じられるメッセージやトーンについてのインサイトを得る
ここからは、それぞれについて具体例とともに掘り下げていきます。
まず最初は、利用環境やユーザーを取り巻く前提についてのインサイトを得ることについてです。

以下のような情報を集めることで、利用環境についてのインサイトを得ることができます。
ユーザーの1日の行動や生活スケジュール
身の回りの状況や人間関係
普段利用しているサービスやプロダクト
例えば、ZoomやGoogle Meet等のオンラインミーティングについてのプロダクトをあなたが作ろうと思った時には、以下のような情報・ファクトが得られるかもしれません。

どうやら頻繁に社内外でミーティングをしている人物のようですね。このような状況でのインサイトを整理してみましょう。

一例として「すぐに会議を開始して、スムーズに切り替えられるようにしたい」といったインサイトが出てくるかもしれません。
このようなインサイトを満たして爆発的に普及したのがZoomです。Zoomでは、任意のURLをクリックするだけで起動し、ミーティング相手のアカウント発行を不要にする等によって、会議の開始を非常に簡単なものにしました。
また、似たシーンとして個人のオンライン通話を考えてみましょう。

どうやら、学校も終わって夜の時間などに、友達と電話をしながら宿題をするといった場面のようです。例えばこのような場面では「だらだら話ながら別の作業もしたい」といったインサイトが出てくるかもしれません。
先ほどのオンライン会議と違って、このプロダクトでは、別のアプリを開いていても通話ができるようなバックグラウンド通信が求められるでしょう。

似たようなシーン・アイデアだとしても利用環境(コンテキスト)次第で、プロダクトに求められることも大きく変わることは、一目瞭然でしょう。
利用環境についてのインサイトを得ることで、プロダクトの方向性や進化の方向性を確かなものにすることができるのです。
またサービスが成長するにつれて、コンテキストは多様化しデザインの難易度も飛躍的に高まります。さまざまなコンテキストを鮮明に捉えることで、不要な複雑さを避け一貫した体験を提供することができます。
2つ目は、プロダクトにおけるユーザーの行動や操作について、得るべきインサイトを掘り下げていきましょう。

プロダクトやサービスにおける「使いづらい...」「何か違う...」といった感想を生む原因は、ほとんどの場合、ユーザーがやりたいアクションや求める情報の量や抽象度についてのインサイトを満たせていないことに起因します。
これらのインサイトを満たすことができれば、単に操作しやすいだけでなく自然とユーザーの生活になじみ、心理的ハードルを減らしてよりアクティブに使ってもらえる可能性が高まります。
では、アクションや情報の粒度についてのインサイトを得るとは、具体的には何をどうすることなのでしょうか?
オンラインショッピングサービスを例に考えてみましょう。ある商品のページを見ていると、「毎月購入する」ボタンに遭遇しました。

企業としては、継続的に購入してほしくてこのボタンが設置されたのかもしれません。
一方で、ユーザーとしては、初見で毎月購入をするかは決められず、似たような商品を見比べたかったようですが、毎月買うしか選択肢がなく、結局購入をやめてしまいました。
「カートに入れる」など、ユーザーにとって適切なアクションを設けていれば、ユーザーは本当に欲しかった商品を購入し、満足したかもしれません。
※ 上記はあくまで一例であり、毎月購入ボタンが場面によっては有効な場合もあります。

この例は非常に分かりやすい例ですが、特にBtoBサービスなどのような、アクション・機能が多いプロダクトでは、ユーザーにとって自然なアクションを用意することは、ユーザーの目的達成と事業の成長を大きく左右します。
また、アクションや機能だけでなく、情報量や抽象度についてもインサイトを踏まえることで優れたユーザー体験を提供することができます。

つまり、ユーザーがやりたい行動(アクション)や、求めている情報の量 / 粒度についてのインサイトを得ることができれば、プロダクトでの適切な機能設計や情報設計を行うことが可能になるのです。

これまでは、プロダクトの方向性やユーザーのアクション・情報を決めるインサイトについて明らかにしてきました。
利用環境 / コンテキストにまつわるインサイトを得ることで、プロダクトの方向性が変わる
ユーザーのやりたい行動や必要な情報についてのインサイトを得ることで、機能や情報設計が変わる
これらを踏まえ、3つ目は、ユーザーのアクションや操作の優先度について、得るべきインサイトを深掘りします。
まずは、ECサイトを例に、分かりやすく悪い例を考えてみましょう。ある商品について、購入やお気に入り追加など、複数のアクションが並列に並べられています。

どの操作も等しく目立っていて、ユーザーは何をすべきなのか、立ち止まって考える必要があります。迷ったユーザーは、スッと画面を閉じて別のことを始めてしまいました...。
お気に入り追加など、どのアクションもユーザーにとって必要なアクションだったのにも関わらず、優先度がついていないことが原因で意図しない行動を生んでしまいます。

では、単純にボタンの大きさや色の強弱などによって、ビジュアルの優先度をつければ良いのでしょうか?
それだけでは不十分です。ユーザーに合った優先度や順番でアクションが提示されていないと、意図しない行動(離脱・目的未達成など)を生んでしまいます。
先ほどのECサイトを例に考えてみましょう。

定量データと定性データの両方から導かれたインサイトとして「まずは(ほしい商品の)候補を集めたい」が得られるかもしれません。
「候補を集めたい」インサイトに対して、いきなり購入導線を置いても(仮に企業側が購入数KPIを増やしたいと考えていても)購入行動は起こらないでしょう。
インサイトを満たした優先度を設計することで、ユーザーの目的達成をサポートし、結果として事業KPIなど事業目標も大きく成長します。

ちなみに、同じサービスでも、デバイスや属性によってアクションの優先度が異なる場合もあります。

アプリ版とWeb版でアクションの優先度を意図的に変えるなど、利用シーン・デバイス・属性に合わせた優先度づけによって、さらに優れた体験を生み出すことができます。
優先度についてのインサイトを得ることで、情報設計や導線設計を効果的に行うことができるのです。

いよいよ最後は、プロダクトではなくコミュニケーションの設計においてのインサイト活用です。

インサイトを捉えたアクションや優先度がついていても、適切に届かなければプロダクトをつかってもらえなかったり、期待値がズレてしまいネガティブな結果につながります。
英会話アプリの広告を例に考えてみましょう。

「ネイティブレベルへ」など、到達できるレベルの高さを訴求するパターン
「毎日5分で」など、簡単さを訴求するパターン
「楽しく英会話」など、楽しさを訴求するパターン
どれも「それらしい」訴求で、実際にどの訴求も一定の効果を生むかもしれません。一方で、限りある時間や資金を使ってより大きな結果を出すためには、フォーカスを定める必要があります。
では、この英会話アプリは、どのような訴求にフォーカスすべきなのでしょうか?

ここで重要なのは、ターゲットとインサイト、訴求案の組み合わせを整理することです。どのようなユーザーが、どんなインサイトを抱えているのかを整理し、見比べることによって会社や事業としての判断を大幅にしやすくなります。

そして、整理した中から、「英会話スキルを身に付けたいもののやる気が続かずサポートがほしい」というインサイトを抱えたターゲット層をピックアップするとします。
このようなターゲットに対しては、サポートの手厚さや、伴走してくれる心強さを訴求すると良いかもしれません。キャッチコピーだけでなく、クリエイティブも「安心感」「頼もしさ」などを重視することで、大きな効果が得られる可能性があります。

また、このターゲットが実は収益の数%程度しか生んでいない場合は、別のターゲットに向けた訴求を検討するのも良いでしょう。
メッセージやクリエイティブに対する印象や感じ方についてのインサイトを集めるほど、適切な訴求ができるようになります。

ここまで、いかにユーザーにとって選ばれる(受け入れられる)プロダクトやコミュニケーションをデザインするかについてまとめました。
簡単にポイントをおさらいしましょう。
1. ユーザーに「選ばれるか / 受け入れられるか」は、(技術力やビジネスモデルなどと並んで)事業の成否を左右する要素である

2. 選ばれるかどうか(優れた体験か)は、ユーザーとプロダクトだけでなく、周辺のコンテキストを含めた3つの関係性で決まる

3. ユーザー / プロダクト / コンテキストの3つを掛け合わせ、優れた体験を生み出すためには4種類のインサイトを得る必要がある

①コンテキスト : 利用環境や前提についてのインサイト = プロダクトの方向性を決める

②プロダクト : アクションや情報の粒度についてのインサイト = 機能設計や情報設計を決める

③プロダクト : ユーザーの優先度についてのインサイトを得る = 情報設計や導線設計を決める

④コミュニケーション : 自然と感じられるメッセージやトーンについてのインサイト = 訴求やクリエイティブを決める

インサイトを「何か魔法のような1つのインサイトを得たら、あとは何もしなくてOK」のような、唯一絶対の正解として捉えてしまうと、意思決定に困る場面に多く直面します。
プロダクト面やコミュニケーション面、さまざまな領域(横軸) / 抽象度(縦軸)でのインサイトを得ること
得たインサイトを活用し、さらに新しいインサイトを得るようなインサイト活用ループを回すこと
これら2つを続けることによって、ますますあなたのサービスは磨かれ、競合があなたの真似をすることがあっても、その間に新しい価値を次々と提供できるでしょう。
そして、継続的なインサイトマネジメントは、あなたのサービスを「(他サービスや他選択肢ではなく)あえてこのサービスを利用したい」へ進化させます。

継続的なインサイトマネジメントこそ、真の価値提供や差別化につながります。自社に合わせたインサイトマネジメントの仕組みを構築するには、ぜひこちらのページからお気軽にご相談ください。
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Author

Kenji Kato
年間400名以上のユーザーインタビューを実践、5回の事業立ち上げ、顧客インサイトを活用し年間売上9倍の成長などを経て、現在はインサイトマネジメントシステム「Centou」のプロダクト責任者をしています。「あらゆる企業やチームがインサイト駆動で成長できる未来をつくる」をモットーに、さまざまな組織のインサイトマネジメントを支援しています。
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