急成長企業カミナシに聞く「なぜインサイトを貯めるのか?」(ゲスト : たじー氏)
- 過去イベント資料

ハイライト
- 「現場ドリブン」を徹底するカミナシでは、年間の現場訪問総数が約3,900回にのぼる
- 「泥臭い業務理解」を競争優位に、新規事業を次々と立ち上げ、顧客からの信頼も厚い
- 躍進の裏側には、約1年半かけて構築してきたインサイトマネジメントの仕組みがある
- 組織でのインサイト活用には3つの段階があり、蓄積されたファクト数が「しきい値」を超えると一気に活用が進む
- 蓄積されたファクト数が「500〜600件」を超えると見える景色が変わる
- 重要なのはまず蓄積すること。最初は手間がかかるが、「しきい値」を超えると複利で大きな成果を得られる
登壇資料
くわしい解説
1. 前提情報と今回のトピック
- カミナシのミッションは「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」
- “現場の基盤”となる「作業」「人」「設備」という3つの領域をまたぐデジタルインフラとして、さまざまなプロダクトを提供している
- インサイトマネジメントを実践してきた視点から「顧客への向き合い方」「インサイトマネジメントの意義」「組織へのインストール方法」「はじめ方のコツ」を紹介する
2. カミナシにおける、圧倒的に「現場ドリブン」なカルチャー
- 「なんとなく良さそう」「商談でほしいと言われた」など、誰かの“勘”を頼りに機能開発をしてしまった経験はないだろうか
- カミナシが向き合う“現場”向けのプロダクト開発は、誰かの勘や浅い業務理解でできるほど甘くないと、日々実感している
- カミナシには「現場ドリブン」というカルチャーがある
- 職種に関係なく、全社員が現場に足を運び、顧客と話し、業務の解像度を高めることを徹底している
- 直近1年間の現場訪問総数は年間3,900回、1人あたり訪問数は年間約29回にのぼる
3. なぜ深く業務理解をすることにこだわるのか
- 情緒的な価値も重要なBtoCプロダクトとは異なり、カミナシのようなBtoBプロダクトでは「業務課題の解決」がすべて
- 業種や現場ごとに業務フローが大きく異なるため、業務理解の難易度も非常に高い
- その中で、プロダクトが乗り越えるべき壁が大きく3つある
- ①スイッチコスト : 現状の業務フローへの"慣れ"や、それを変える"痛み"を上回るほどの圧倒的なメリットを示す必要がある
- ②機能の穴=業務の停止 : たとえ9割の業務に対応できても、残り1割に対応できなければ「使えない」と判断される
- ③ ワークフローの提供 : 顧客は機能ではなく「何の業務が完了するのか」に、お金を払う
- 現在の業務フロー(As-Is)を深く理解することが不可欠であり、それがなければ理想像(To-Be)を設計することもできない
4. 「泥臭い業務理解」を重視する姿勢は、競合優位性になる
- アイデアやプロトタイプを量産する「数撃ちゃ当たる」アプローチでは、あったら嬉しい止まりな“Nice to have”なプロダクトになってしまう可能性が高い
- 「あったら嬉しい」と「無いと困る」には大きな差があり、その差を埋められないと「思ったほど使われない」「契約に至らない」といった状況に陥りやすい
- 一見遠回りに見えても、はじめに業務理解を深めるほうが、顧客に本当に喜ばれる打ち手を生み出しやすく、結果的に近道となる
- 仮にアイデアが外れたとしても、深い業務理解があれば次の打ち手にもつながりやすい
- カミナシでは、泥臭い業務理解そのものが競合優位性になっている
- 実際に顧客からは、「カミナシがないと業務が回らない」「現場のことを深く理解してくれているから信頼できる」といった評価をいただくことも多い
5. インサイトマネジメントを行う意義
- カミナシにおけるインサイトマネジメントの意義は、現場で得た一次情報を、誰かの頭の中で留めたり、議事録のままにせず、誰でも事業に活かしやすい形に変換することにある
- インサイトマネジメントの基盤として、Centouを活用している
- Centouでは、議事録に対してファクトやインサイトを紐づけ、構造的に管理できる
- インサイトとして管理しておくことで、さまざまな分析や意思決定に活かすことができる
6. よくある誤解① : 議事録を検索できるようにすれば良くないですか…?
- 議事録が溜まっているだけでは、どこに何があるか知っている人しか見つけられない
- その結果、リサーチした人や長くサービスに関わる人と、そうでない人の間で「知っている / 知らない」の格差が生まれる
- 格差があると議論の目線が揃わず、顧客に刺さるアイデアや打ち手も出しづらくなる
- だから、誰でもアクセスしやすい形でインサイトを構造化しておくことが重要
7. よくある誤解② : AIでちゃちゃっとできませんか…?
- 定性データにも、溜め始めてから活用に至るまでの段階があるという理解が必要
- 定量データなら「まず3か月溜めてから分析しよう」が自然に受け入れられるが、定性データでは「溜め始めたのに、なぜすぐに使えないのか」と思われがちである
- 顧客理解はフロー情報ではなくストック情報として扱うべきものであり、手間をかけて育てていくと、複利で効果が現れる
- 「AIでちゃちゃっと…」といった声が上がる背景には「インサイトのベストな使い方」が描けていないケースも多い
- インサイトを「自分の仮説の証拠集めの1つ」程度に捉えるのではなく、そもそもインサイトの理想的な使い方を描いていくと、蓄積する意義が見えてくる
8. インサイトマネジメントを組織にインストールするには?
- カミナシでは、2024年7月に1チームでCentouの利用を開始。約半年かけて成果を出し、2チーム目、3チーム目と段階的に運用範囲を拡大していった
- 社内でも興味を持つメンバーが増えていき、現在は6チームがCentouを使ってインサイトマネジメントを実践している
- 最初の1チームでの導入後、全社的に活用が広がるまでは"約1年半"の道のりであった
- 短期的に大きな成果を求めるのではなく、中長期的な目線でインサイトを育てていき、組織全体での活用を進めていくと良い
9. インサイトマネジメントにおける、3つの活用段階
- 組織内でのインサイトマネジメントの活用段階は、3つのレベルで整理できる
- Lv.1:最初のインサイト管理者が現れ、インサイトマネジメントを始めている状態
- Lv.2:複数の管理者が運用に関わり、インサイト活用の機会も増えてきている状態
- Lv.3:管理者以外のメンバーも含め、チーム全体でインサイト活用ができている段階
- これらのレベルは、蓄積されたファクト数と照らし合わせると、具体的にイメージできる
- 100〜300件(Lv.1):溜めはじめで、まずは蓄積に注力する段階
- 300〜600件(Lv.1):局所的な分析・意思決定にインサイトを活用できる段階
- 600〜900件(Lv.2):活用範囲が広がり、管理者以外の人も運用に関わり始める段階
- 1,000件〜(Lv.3):インサイトがチームの武器として定着する段階
- カミナシでは、最もファクト数が多いチームでは1530件蓄積されており、他チームでも1000、500、100など、さまざまなフェーズが存在している
10. ファクト数で見る、インサイトマネジメントの「しきい値」
- 100〜300件|溜めはじめ期 : 最初の管理者がデータを溜める中で、インサイトの肌感が掴めてくる。ただし、分析するにはデータ量が不足している状態
- 300〜600件|メインテーマ分析期 : 主要な1〜2テーマなら分析可能なデータ量となる。新たな切り口での分析には、追加のリサーチやファクト出しを行う必要がある
- カミナシではこの段階から、特定の業務フローに沿った課題マッピングをCentouで行い、全体像やニュアンスまで含めて、チームの共通認識にできるようになっている
- 600〜900件|蓄積活用の勃興期 : 追加リサーチをせずとも、既存のファクトのみで十分な分析が可能になる。管理者以外のメンバーが覗いても、新たな発見が得られる状態
- カミナシではこの段階から、あるチームで蓄積されたファクトをもとに、別チームにも示唆のある分析を提供するなど、部署を超えた活用もできるようになっている
- 1,000件〜|チームの武器期 : スピード感がぐっと上がり、チームとしてインサイトを活用できている実感を持てるようになる
- カミナシでは、幅広いメンバーが自律的にインサイトを発見したり、解像度の高い顧客理解を素早くできる状態になっている
11. インサイトが数多く溜まると、事業の大きな意思決定に活用できる
- インサイトマネジメントに取り組む他企業でも、ファクト数が1000を超えてくると、事業全体の解像度が高まり、戦略レベルの大きな結論を出せるようになっていく
- 数多くのインサイトを蓄積できているということは、デスクリサーチでは得られない「自社しか知らない顧客の秘密」を、組織全体で共有できている状態と言える
- その結果、クリティカルな意思決定にインサイトを使えるようになり、事業の競争力が高まっていく
12. 蓄積されたインサイトの活用が体感できるしきい値は「500〜600」
- ファクト数が500〜600を超えると、蓄積されたインサイトをもとに分析や意思決定がスムーズに回り始め、見える景色が大きく変わってくる
- インサイトマネジメントをこれから始める人、または始めたものの不安を感じている人は、まず「500〜600件の蓄積」をマイルストーンにするとよい
- このしきい値に到達するまではアウトプットを急がず、まずは蓄積に集中することで、後から複利で効果が出てくる
- 実例として、カミナシの別チーム(新規事業)でもインサイト基盤の構築を進めており、300件までは約1ヶ月、500〜600件までは約3ヶ月が一つの体感的な目安となっている
- 他業務と並行して進めることになるので、1ヶ月、3ヶ月といった長めのスパンで計画を立てるのが現実的である
13. インサイトマネジメントを始めるには?
- まずやるべきは「最低限のルール」を決めること
- 決めるルールは3つで、「①どこに溜めるか(ツール)」「②誰が管理するか(旗振り役)」「③ファクトの粒度やタグの付け方」である
- ルールは最初から厳密に作り込まず、運用しながら育てていくことが重要
- 完璧さや網羅性を最初から求めると運用ハードルが上がり、続かなくなる
- 「まず溜めること」が重要。雑でもいいのでデータ量を増やし、後から整理すると良い
- インサイトの入口はインタビューだけではなく、商談議事録・問い合わせ・アプリレビューなど、既にある情報を拾えば、誰でも今日から始められる
- CentouではSlackから簡単にリサーチファイルを作成できるので、セールス・CSの投稿や、VoCチャンネルの内容も手軽に蓄積できる
14. Q&A: 要望とインサイトは、何が違う?
- 要望とインサイトの違いは、「顧客が言っていること(要望)」と「顧客が本当に必要としていること(インサイト)」を分けて捉える点にある
- 細かくて表面的な要望(例 : タグの表示を見やすくしてほしい)は、すぐに対応すればよく、必ずしもインサイトとして整理する必要はない
- 実際にカミナシでも、細かな要望についてはNotionなどの別ツールでバックログとして管理して対応することもある
- 一方で、大きな機能改善や新機能に関わるような要望をそのまま実装してしまうと、「Nice to Have」になりやすく、本質的な課題解決につながらない
- 実は代替手段で満たせたり、よりシンプルな解決策が見つかることも多いので、「本当に必要としていることは何か」という視点で要望を深堀り、インサイトにしておくことが大切
15. Q&A: リサーチデータの蓄積やインサイト出しは誰がやる?
- 以下2つのモードを使い分けながら運用している
- ① リサーチデータの蓄積:顧客接点が多いメンバー中心に、雑に・ハードル低く取り組む
- カミナシでは、全員が現場訪問などで顧客接点を持つ機会があるので、職種関係なくリサーチデータを蓄積することが多い
- 特に顧客接点が多いのはセールスやCSなどのBizDevメンバーだが、忙しい中ですべての議事録をCentouに入力するのは現実的ではない
- そのため、録画のURLだけ送ってもらって、管理者がCentouに文字起こしデータを蓄積するなど、入力ハードルをできるだけ下げる工夫をしている
- ② インサイト出し・体系化 : 少人数のコアメンバーでしっかり取り組む
- カミナシでは、主にPdMやデザイナーを中心とした少人数で、インサイト出しやデータ構造の設計を進めることが多い
- 初期は、1〜2名が中心となってインサイト抽出や体系化の肌感を掴み、運用が安定してきたら徐々に関わるメンバーも増えていくようなイメージ
16. Q&A: インサイトマネジメントを始める上で、指標は何にすると良い?
- 「インサイトマネジメントは、事業成長のために」という認識を持つことが重要
- 成果指標としては、インサイト起点で成果につながった事例(例:事業が伸びた、意思決定がしやすくなった)を増やすことを追いかけると良い
- 成功事例が増えると、他メンバーもインサイトマネジメントの価値を実感でき、組織への浸透もさらに進みやすくなる
- 最初からファクト数などのアクション量だけを指標にすると、手段が目的化しやすいため注意が必要
- ただし、大規模組織への導入時など、状況によっては、ファクト数などを活動指標として設定することが有効な場面もある
- カミナシでは、インサイトマネジメント単体の指標は設けていない。事業成果を主要指標として設定しており、その達成に向けたアクション目標(例 : 〇〇の業務フローを深く理解する) は必要に応じて設定する運用としている
登壇者について
田島 佳穂 (株式会社カミナシ プロダクトデザイン部 リサーチユニット)
ヤフー株式会社(現・LINEヤフー株式会社)に新卒で入社後、フリマサービスの新規事業立ち上げを行い、デザインマネージャーとして従事。その後は、MIMIGURIにて組織開発サービスの事業責任者などを務め、デザインを軸としながらビジネス領域にも携わる。 2025年3月にカミナシへジョインし、UXリサーチ組織の立ち上げやマネジメントを行っている。主にプロダクト開発のディスカバリーフェーズでリサーチをしながら、全社のリサーチ推進を担当。





