30分でわかるインサイトマネジメント(2026.3編)
- 過去イベント資料

ハイライト
- インサイトマネジメントは競争優位を築く概念であり、早く始めた組織が有利となる
- 顧客接点の増加や生成AIの普及により、これまでのユーザー理解の問題が浮き彫りになってきている
- 構造的な問題は、「縦の問題(小粒なインサイト問題)」と「横の問題(閉じたインサイト問題)」の2つに整理できる
- 問題を放置すると「インサイト負債」がたまり、解消に膨大な時間がかかる
- 解決には、インサイトを事業を動かす 「大きな結論」 に引き上げること、そして組織全体で使える 「共有資産」 にすることが必要である
- 生成AIによって、インサイト基盤の重要性はますます高まり、インサイト基盤がある組織とない組織の差が広まる
- 早期からインサイト基盤に投資した組織は、一朝一夕では真似できない競争優位性を獲得する
- インサイト基盤に投資している組織は、職種・部門を超えて一貫した動き(Integrity)ができるため、生成AI等で得られる速さを価値に転換できるようになる
登壇資料
くわしい解説
1. インサイトマネジメントとは
- インサイトマネジメントとは、「さまざまな顧客接点を集めて体系化することで、組織全体で扱えるようにすること」である
- 全体像は、「①集める → ②体系化する → ③共有・活用する」という3ステップで表せる
2. インサイトマネジメントの時代背景
- インサイトマネジメントは、2013年頃から提唱され始めた概念である
- ユーザー理解は「データの時代 → インサイトの時代 → インサイトマネジメントの時代」という3段階で進化してきた、と捉えられる
- 2000年代はクラウド/BI/ビッグデータが広まり、まず「データの時代」が到来した
- 2010年代はデザイン思考やユーザビリティが注目され、マーケ/商品企画でもインタビュー等による深い顧客理解が重視される「インサイトの時代」へ進んだ
- そして現在は、顧客接点を持つ職種が増えたことでインサイトが散在しやすくなり、それを体系化して活かす「インサイトマネジメントの時代」へ移行しつつある
3. インサイト時代から、インサイトマネジメント時代へ
- インサイト時代は「いかに質の高い情報を得るか?」が関心の中心で、ユーザーインタビューやUXリサーチで、より深い顧客理解を得ることに注力していた
- その象徴として、企業内にUXリサーチャーが採用されたり、リサーチ組織が立ち上がったりと、専門職としての顧客理解が整っていった
- 一方でインサイトマネジメント時代は、「得たインサイトを、いかにムダなく事業に活かすか?」へと関心が移っている
- 背景は、リサーチが民主化して多職種が顧客接点を持つようになり、インサイトが散らばるようになったこと
- だから論点は「調査・分析(点)」から「統合・共有(面)」へシフトし、職種や部門をまたいで使えるインサイト基盤が必要になった
4. 環境の変化による関心の移り変わり
- 現在は、誰でも顧客接点を持てるようになり、インサイトが組織内で散在しやすくなっている
- さらに生成AIの普及で、つくることが爆発的に簡単になり、ますますディスカバリー(何をつくるか)の重要性が高まっている
- 速くつくることや深い情報を得ること以上に、「組織内にインサイト基盤をつくり、統合・共有して使える状態にすること」が重要になっている
5. これまでのユーザー理解の問題 : 実際に起っていること
- これまでのユーザー理解における問題点として、実際に起こっていることを3つ紹介する
- ① 誰かが発見したことが、すでに他の人も知っている: 顧客接点が増えた結果、調査結果が組織内で重複したり、ムダが生まれている
- ② 価値が認められず、投資されない: 「調査してもしなくても判断は変わらない」と見なされると、顧客理解が軽視され、場合によってはリサーチ組織の解体・縮小につながる
- ③ スピードとのトレードオフに見られる: さらに悪いケースでは、リサーチが事業スピードを遅くする存在として煙たがられてしまう
6. 問題の構造 : 縦と横の問題
- 問題の構造は大きく2つに集約され、「縦の問題(小粒なインサイト問題)」と「横の問題(閉じたインサイト問題)」として整理できる
- 縦の問題:インサイトが施策レベルの小さな結論で止まり、上位の意思決定に影響を与えない
- 顧客理解が現場のプロジェクトから始まるのは自然で、始めること自体はむしろ良い
- ただし、戦略が変わることのない「小さな結論」しか出せない状態が続くと、投資もされず、「すでに決まった施策の失敗を避けるために一応やる」程度の認識となる
- 横の問題:インサイトがチームや個人に閉じ、組織全体で共有されない
- 本来はすでに分かっていることまで調査し直してしまい、不要なコストが発生する
- その結果、リサーチは「遅いもの」= スピードとのトレードオフとして見られる
7. 縦と横の問題が解消されない限り、顧客理解への投資は増えない
- 縦と横の問題が解消されない限り、顧客理解への投資は増えない
- 縦の問題が解消されないと、現場が「顧客に向き合おう」と言っても、経営側は「それで事業が伸びるのか?」が判断できず、投資が「信じるかどうか」の問題になってしまう
- 横の問題が解消されないと、すでに分かっていることを各部署が何度も調べ直す「車輪の再発明」が起き、現場は疲弊する一方で、経営もなおさら投資に踏み切れない
- 問題を放置すると、「インサイト負債」が増え、解消に膨大な時間が必要になる
- 組織や事業が大きくなるにつれて構造はさらに複雑化し、誰も「なぜ選ばれているか」を根拠をもって語れない状態になっていく
- その結果、「(顧客課題って)いろいろあるよね」といった曖昧な言葉が増え、意思決定が難しくなる。最終的には「偉い人の意見が勝つ構図」が常態化する
- これが、事業・組織のスケールに対して顧客理解のスケールが追いつかず、インサイト負債が溜まっている状態である
8. 解決のために必要なこと
- 縦の問題を解くには、現場で得られたインサイトを、事業や戦略を動かせるレベルの 「大きな結論」 まで引き上げてフィードバックする
- 横の問題を解くには、インサイトを特定の個人・チームに閉じず、他チームでも使える 「共有資産」 にする
- 事業を動かすのは、常に「大きな結論」である
- 例えばNetflixの「イントロスキップ」は、さまざまなファクトから導かれた「一気見する時に、早く本編に入りたい」という大きな結論に基づく、高インパクトな施策だった
- 大きな結論は「大きなリリース」を意味しない。小さなリリースでも、結論が大きければ事業インパクトは大きくなり得る
- インサイトを満たす手段は一つではない。プロダクト・マーケ・運用など複数の手段で“徹底的に満たし続ける”ことが成長につながる
- 「大きな結論にする(縦)」と「組織で共有できる資産にする(横)」 という2つが、顧客理解への投資を増やし、事業成果につなげる要点である
9. なぜ今、インサイトマネジメントか
- いま最も大きい環境変化は、生成AIの普及によって、何かをつくる・生み出すこと(デリバリー)が爆発的に速く、容易になっていること
- これは「デリバリーだけでは差がつきづらくなっている」ことを意味する
- さらに、誰もが顧客接点を持てるようになり、組織内でデータが散らばりやすくなった
- だからこそ、デリバリー以外の“一朝一夕では真似できない強み”への投資が重要であり、その中核が企業独自のインサイト基盤である
- 加えて、実行を価値に変換するには、組織全体でインサイトを共有することで生まれる「一貫性」を築く必要がある
- 今後、どの組織もつくるスピードが上がるほど、マーケとプロダクトがバラバラに走る組織は、実行の速さを価値に変換できず不利になる
- インサイトがそろい(insight-aligned)、一貫性高く動ける組織が勝つ
10.インサイト基盤は模倣しづらい
- インサイト基盤は「顧客接点が多い」だけでは作れず、集めた情報を体系化して全社で使える状態にする必要があるため、そもそも模倣が難しい
- 面倒だからとインサイトを貯めてこなかった組織は、判断が属人化し、「なぜ選ばれているか」が分からないまま、小手先のhowばかりが話され、結果として事業も伸びない
- インサイトを貯め続けた組織は、顧客理解が複利で蓄積し、他社が追いつけない「自社しか知らない顧客の秘密集」を持つ状態になる
- その結果、メンバーが自律的に動き、手戻りが少なく、事業を伸ばせる組織となる
- インサイト基盤は今から作るべき競争優位であり、早く始めた組織が有利になる
11. インサイトマネジメントの理想状態
- 理想状態は、「根拠ある価値のツリー」ができていること
- トップレベルの課題・価値 → 分解されたインサイト → 根拠となる一次情報が紐づいていて、どこからでも辿れること、アップデートできることが重要
- 事業成長と連動して、この「根拠ある価値のツリー」が育っていくことが理想的
- 例としてZoomなら、トップレベル課題の一つは「スムーズな会議の開始」で、ここに向けてフリクションを潰すことを重視してきた
- この課題を分解すると「開始前の登録・ログインの手間」「接続不安」「入室までの分かりづらさ」などのインサイトが出てくる
- 分解したインサイトに対して「URLからワンクリックで入れる」などの施策が紐づくことで、初めて価値として成立する
- 価値のツリーを理解せずに競合の機能を部分的に真似しても、選ばれる理由にはならない
12. はじめ方のポイント
- はじめ方としては、まず一次情報やインサイトを集めて貯めることから
- ただし蓄積は複利で効く取り組みなので、効果はすぐには現れづらい
- 早く効果を出すためには、「③共有・活用」から逆算し、どんなインサイトを集めるべきかを設計することが重要
- 下層(議事録などの一次情報)が集まってきたら、それに合わせて上層(インサイト)も更新されるように、徐々に「根拠ある価値のツリー」を育てていくイメージ
- ツリーが育つほど、外さない開発ができるようになり、競合が追いつけないレベルの顧客理解が“資産”として組織に定着していく
- 現場レベルでも、インサイトがたまるほど「いまどれくらい分かっているか」が可視化されるため、顧客理解とスピードをトレードオフにせず意思決定しやすくなる
- すぐに試したい人には、「Notionテンプレ」と「スプレッドシートテンプレ」も用意している
13. AIでできないんですか?
- 「AIでできないんですか?」という問いは、その問い自体が微妙だと考えている
- インサイトマネジメントは「集める→体系化する→共有・活用する」の3ステップであり、AIはこのうち一部(抽出・要約など)で力を発揮できる
- たしかに議事録をAIに渡せば、ファクトやインサイトの抽出はできる。しかしAIの回答だけだと、“間の論理がすっ飛ばされてしまう”ことがある
- 厄介なのは、仮に結論が正しかったとしても「なぜそう言えるのか」をたどれず、後から更新・修正もしにくい点。これでは組織でインサイトを扱いづらい
- インサイトマネジメントで最も重要なのは第3ステップの「共有・活用」であり、組織全体で再利用できる状態をつくることに価値がある
- 本質は「人がやるか・AIがやるか」ではなく、インサイトをうまく扱う(更新する・根拠をたどれる)ための枠組みを構築できるかという点にある
14. さいごに
- インサイトマネジメントは、確実に競争優位につながる概念である
- 地味だが複利で効く取り組みであり、早く始めた組織ほど有利になる
- 今後、デリバリー(開発・施策実行)がさらに高速化する中で、インサイト基盤がある組織と、ない組織の差はますます広がっていく
- これまで顧客理解と向き合ってきた人にとっては、顧客理解を事業成長へ結びつけられるようになり、「報われる」ための概念である
- これまでビジネスに真剣だった人にとっては、顧客理解がキレイゴトではなく売上に効くのだと、ようやく確信できるための概念でもある
- 勝つのは早く始めた組織であり、まずは今日から始めてみることが重要
登壇者について
加藤 けんじ (Centou 創業者 / プロダクトマネージャー)
エンジニア→UIデザイナー→プロダクトマネージャーを経て、Centouを立ち上げ。これまでに5つの事業の立ち上げ・グロースに関わり、累計700名以上のユーザーインタビュー、最大年間900%の売上貢献を達成。顧客インサイト起点のプロダクト成長を得意とする。チームで顧客課題や価値を扱う難しさが原体験となりCentouを創業。「インサイト図鑑」などの発起人。日本、世界でのインサイトマネジメントの普及を目指す。(X : @kenjikatooo)





