30分で分かるインサイトマネジメント(2026.6編)
- 過去イベント資料
登壇資料
くわしい解説
1. インサイトマネジメントとは
- インサイトマネジメントとは、「さまざまな顧客接点を集めて体系化することで、組織全体で扱えるようにすること」である
- 全体像は、「①集める → ②体系化する → ③共有・活用する」という3ステップで表せる
2. インサイトマネジメントの時代背景
- インサイトマネジメントは、2013年頃から「新しい専門性」として提唱され始めた概念である
- ユーザー理解は、「データの時代 → インサイトの時代 → インサイトマネジメントの時代」という3段階で進化してきたと捉えられる
- インサイトの時代は、「いかに質の高い顧客理解を得るか」が関心の中心であり、ユーザーインタビューやUXリサーチを通じて、より深い顧客理解を得ることに注力してきた
- 一方、インサイトマネジメントの時代は、「得られたインサイトを、いかにムダなく事業に活かすか」へと関心が移っている
- その背景には、さまざまな職種が顧客接点を持つようになり、顧客情報やインサイトが組織内に散らばるようになったことがある
- 深い顧客理解の重要性は変わらないが、論点が「調査・分析」から「統合・共有」へとシフトしてきている
3. インサイトマネジメントは何であって、何でないか
- 調査・分析を増やすことではなく、顧客理解を組織全体で「統合・共有」すること
- お客さんのことを知って終わり(理解がゴール)ではなく、その情報が組織内に「流通」していることがゴール
- 単なる議事録や情報の整理ではなく、あとから別の場面でも使える「再利用可能なデータベース」にすることが重要
- 重厚なレポートを作るのではなく、小回りのきく「インサイト」という単位で顧客理解を扱う
- 毎回おつかいのように調査をしに行くのではなく、必要な時にすぐ取り出せる「冷蔵庫」のような状態をつくる
- より詳細はこちら : 事業を伸ばすユーザー理解戦略 インサイトマネジメントについて
4. 顧客インタビューやリサーチ活動自体は、売上にならない
- 実際にインサイトマネジメントに取り組むためには、「なぜ今、自社でやるのか?」「何を解決するために?」といったモチベーションを明確にすることが重要
- そのヒントとして、200社以上を支援するなかで見えてきた「インサイトマネジメントが解決すること」を、大きく分けて4つ紹介する
- まず1つ目は、顧客インタビューやリサーチ活動自体は、売上にならないということ
- 顧客理解は重要である。一方で、リサーチ活動は「やればやるほどえらい」ものではなく、やらないで済むならば、それに越したことはない
- 限られたコストでより大きな成果につなげるためには、「再利用可能なインサイト」を蓄積することが重要である
5. 議事録のデータベースは何も解決しない
- インタビューの議事録や調査レポートを蓄積したとしても、結局誰も見ないし、見たとしても解釈は読み手任せとなってしまう
- LLMなどで検索しやすくしても、本質的な課題は解決しない
- 一次情報だけでなく、そこから導き出せる課題や価値などの「so what」に答えられる単位で蓄積する必要がある
6. 企業内の意思決定が一人で完結することはほとんどない
- 企業内の意思決定は、ほとんどの場合、誰か一人だけでは完結しない
- プロダクト開発でもマーケ施策でも、企画、UI、実装、テスト、CSなど、多くのプロセスや職種が関わって一つの施策が形になる
- 誰か一人だけが顧客課題を理解しており、その人に聞かなければ意思決定できない状態では、組織として動きが遅くなり、人も育ちにくい
- インサイトマネジメントの意義は、顧客課題やインサイトを一部の人の頭の中に閉じず、チームで議論可能な状態にすることにある
- 顧客理解が共有されていれば、各メンバーが自分の専門性を活かしながら、自律的に判断できるようになる
7. 数人にインタビューした程度では、得られるヒントは限られている
- 事業や戦略レベルの意思決定において、どれほど優れた仮説があっても、数人へのインタビューだけを根拠に結論を出すことはできない
- 「この調査ではここまで分かった」「別の調査ではこのことが分かった」と学習を積み重ねることで、ようやく事業全体で解くべき課題が見えてくる
- つまり「インサイトが育っていく構造」が必要である
- この構造がなければ、点での学びは増えても、全体像にはモヤがかかったままになる
- それでは、いくら顧客理解に力を注いでも、筋の悪い戦略を最適化するだけになってしまう
8. 10集めた顧客の声を、100の成果に変えるために
- インサイトマネジメントに取り組むモチベーションを端的に言えば、「10集めた顧客の声を、100の成果に変えること」である
- 顧客の声を理解しただけで終わるのではなく、できるだけ早く、価値や売上につなげたい
- ただチームで同じ顧客課題を見ていたいだけなのに、認識のズレは埋まらず、会議ばかり増えるが、何も決まらない
- こうした日々の悩みや葛藤を解消し、顧客にとっての価値だけにチーム全員が集中できるようにする取り組みが、インサイトマネジメントである
- 改めて、かっこつけずにインサイトマネジメントに取り組むモチベーションを言うなら「明日の自分たちをラクにするため」となる
9. ゴールは「根拠ある価値のツリー」をつくること
- インサイトマネジメントのゴールは、「根拠ある価値のツリー」ができている状態である
- つまり、事業として解くべきトップレベルの課題から、その根拠となるファクトまで辿れ、アップデートできる状態を指す
- 例えばZoomでは、トップレベルの課題として「スムーズな会議の開始」があり、その実現のために「URLからワンクリックで参加」「ログイン不要」などの機能が紐づいている
- 一方で、「ブレイクアウトルーム」は「オンラインの場の再現」という別の課題に紐づく機能と捉えられる
- 同じZoomの施策であっても、どの課題を解決するためのものかによって、プロダクト戦略や提供すべき機能は大きく変わってくる
10. 可視化フェーズ
- はじめ方は、「①可視化」「②蓄積」「③高度化」の3つのフェーズで考えると分かりやすい
- 最初の「可視化フェーズ」は最も始めやすく、「この前聞いたお客さんの話は、要するにこういう課題だったよね」と書き出すだけでよい
- ファクト(事実)→ インサイト(解釈)を1セットにして、紙でもどんなツールでもよいので、まずは可視化してみる
- それだけでも、他のメンバーと「なるほど、そういう課題だったのか」と認識を揃えやすくなれば、良い兆候である
- 具体的なイメージは、「インサイト図鑑」に掲載されている豊富な事例を参考にしてほしい
11. 蓄積フェーズ
- 蓄積フェーズでは、「ファクト → インサイト」のセットを増やすことにフォーカスする
- すると、プロダクト開発だけでなく、マーケティングやセールスなど、さまざまな場面で活用できるようになっていく
- ファクト・インサイトの蓄積は、PdMでも、マーケターでも、職種を問わず誰が担ってもよい
- 実例としてカミナシでは、製造業におけるさまざまなケースのファクト・インサイトを蓄積し、現在では1,000件以上のデータが蓄積されている
- ファクト・インサイトのセットが大量に蓄積されることで、「今、分かっていること」と「まだ分かっていないこと」が常に明確になり、外さないプロダクト開発につながっている
12. 高度化フェーズ
- 高度化フェーズでは、これまで1対1で扱っていた「ファクト → インサイト」のセットを、さらに上位のインサイトへと抽象化・統合していく
- 例えばZoomでいう「スムーズな会議の開始」のように、事業全体で解くべきトップレベルのインサイトへと引き上げるイメージである
- これによって、戦略から実行・実装までが一貫し、チーム全体が同じ顧客課題にフォーカスすることができるようになる。その結果、施策の打率も飛躍的に高まっていく
- つまり、高度化フェーズのキーワードは、「大きな結論」を得ることである
13. 失敗しないためのヒント
- よくある失敗の1つは、「とにかく情報を貯めればいい」と捉えてしまうこと
- インサイトマネジメントは冷蔵庫での食材管理に似ていて、活用先(つくりたい料理)を考えずに材料を詰め込むと失敗しやすい
- たとえば「クレソンを100個、冷蔵庫に入れておきました」と言われても使い道に困るように、活用先が見えないインサイトを蓄積しても意味は薄い
- はじめ方の肝は、自分が一番詳しい料理(活用先)の材料から集めること
- もう1つの失敗は、「AIで効率化すればよい」と早い段階で考えてしまうこと
- そもそも効果が出ていない状態では効率化できない
- インサイトマネジメントが解決するのは、本質的には組織開発の問題(意思決定スタイルの問題)なので、単に蓄積を効率化したから良いというわけではない
14. さいごに
- カミナシでインサイトマネジメントを推進する右田氏は、「インサイトマネジメントは複利で効いてくるもの」だと語る
- 今は顧客理解に課題を感じていたとしても、インサイトマネジメントに投資し続けることで、顧客理解は組織の強みとして育ち、事業の成長にもつながっていく
- 明日の自分たちをラクにするためにも、今日からインサイトマネジメントを始めてみてほしい
登壇者について
加藤 けんじ (Centou 創業者 / プロダクトマネージャー)
日本におけるインサイトマネジメントの第一人者として、インサイトマネジメントの事例発信や普及を行う。また国内では初となるインサイトマネジメントクラウド「Centou」のプロダクト責任者を務めている。7度の新規事業立ち上げや数千人以上への顧客インタビューなどを通じて、「チームでインサイトを扱う重要性」についての原体験を経て、インサイトマネジメントの考え方に共感。顧客に喜ばれる仕事が当たり前に、より自然になるように、さまざまな企業でのインサイトマネジメントのアドバイザーとしても幅広く活動中。(X : @kenjikatooo)





